2012年07月02日

オテル・ド・ヨシノ


和歌山に住んでいてよかったと思うこと。満員電車に揺られることなく徒歩で通勤ができる(野鳥に出会いながら)。日が長い。オテル・ド・ヨシノがある。

オーナーシェフの吉野建氏は本場のパリにもつ「ステラマリス」というレストランでミシュラン1つ星を獲得している。氏の奥様が和歌山出身だということで「オテル・ド・ヨシノ」が誕生したという。料理長は手島純也氏が務める。月に1度程度ある吉野氏が和歌山を訪れる日には氏のお料理が戴ける。


オテル・ド・ヨシノ


お料理は見た目が絵画のように美しく繊細で美味しい。かつてLismという和歌山のフリーペーパーにある料理のポートレートコーナーに手島料理長が提供したひと皿は煌びやかで息をのむ美しさだった。額に入れて飾るために保存しておかなかったことを悔やんでいる。
そして、オテル・ド・ヨシノでは食材の宝庫である和歌山が誇る数々の材料が申し分なく仕立て上げられている。それこそが吉野氏の掲げるテロワ(大地)の料理なのだろう。ランチで3千円から、ディナーは6千円からという価格は率直に言ってかなりのお値打ちだ。

前菜には加太や湯浅から届く新鮮な魚介類がさらりと並ぶ。秋になるとふわっとした栗のスープが出迎えてくれる。しかし、なんと言っても、「熊野牛のステーキ」の初めての一口目の感動は忘れられない。まずは香ばしく、あとから確かな旨みがやってくる。他にどんなに魅力的なお料理があろうとも、ジビエももちろん食べたいのであるが、ついメインに選んでしまう一品だ。

□□□

これに関しては夫の悩みがある。彼は「熊野牛のステーキ」はもちろんのことであるが、付け合わせが気に入っている。じゃがいもが円筒状にくるくると巻かれていて小さなポテトグラタンのようで確かに美味しい。ところが、このくるくるはフィレに添えられているときもあればサーロインに添えられるときもあるのだ。彼は実のところ、フィレかサーロインか、よりも、くるくるが付いているか否かでメインを選びたい。しかし、「じゃがいもの付け合わせ、えっと、くるくるしてるの、アレはフィレとサーロインのどっちに添えられていますか?あっ、じゃあサーロインにします」というやりとりをする勇気がないのだ。
くるくるで料理を決める奇人を自らカミングアウトしてしまうことになるうえに、もし、万が一、人の良いスタッフから申し訳なさそうに「あいにく本日はどちらにも添えてございませんが・・・」と告げられたら、動揺してワイングラスを倒してしまうかもしれない。だから、彼はいまも変わらず「熊野牛のステーキ」が運ばれてきて銀色の蓋が開けられる瞬間にどきどきしている。

□□□

オテル・ド・ヨシノ


「星をつかむ料理人」という吉野建氏の半生を描いた本が新潮社から出ている。レジカウンターにサイン本が置かれていたのでミーハーな私が思わず手にとると、手島料理長がこの本に出会って吉野氏に師事したことをお話してくださった。読むと、華やかな世界に生きる吉野シェフが大変な苦労人で努力家であることがわかる。そして、和歌山に偉大なシェフがいる「オテル・ド・ヨシノ」があることの幸運を深々と噛み締めるのだ。


【HP】http://hoteldeyoshino.com/


Posted by wacky at 15:15 │フランス料理